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菅原孝標女(すがわら の たかすえ のむすめ)
本名 不明
生没年 1008年生まれ~不祥
父 菅原孝標 母 藤原倫寧女(ふじわら の ともやす のむすめ)
夫 橘俊通
子 橘仲俊 娘
父 孝標が上総国(千葉県)に赴任したため10歳から13歳までその地で過ごす
晩年は、夫の橘俊通が亡くなり50歳を過ぎて「更級日記」を書き始めたといわれている
「更級日記(さらしなにっき)」を書いたのは、菅原孝標女という女性です。
実をいうと、彼女が書いた直筆のものは行方不明となっていましたが、小倉百人一首の選者である藤原定家(ふじわら の ていか)が「更級日記」を発見して、それを書き写したことによって現在に伝わる日記となりました。

定家さんありがと~う
菅原孝標女の父は学問の神様といわれている菅原道真の五代目の嫡流です。
孝標女の母の姉は・・・なんだかよく分からなくなってきましたね。

通称 ”たかちゃん” にしよう!

たかちゃん・・・いいかも・・
”たかちゃん” の母は「蜻蛉日記」を書いた”藤原道綱母”の異母妹です。
父の孝標さんが上総の国に赴任する際はこの ”たかちゃん” のお母さんは京都から外に出るのが嫌な人だったらしく同行しませんでした。
孝標と上総国に同行した女性が ”たかちゃん” の人生を左右することになる継母、上総大輔(かずさ の たいふ / のちに孝標と別れて別の人と結婚)です。
なぜ、上総大輔が ”たかちゃん” の人生を左右することになったのかというと ”たかちゃん” が紫式部が書いた「源氏物語」の存在を知るきっかけをつくった女性だったからです。
上総大輔の父が高階成行で、その成行の弟が源氏物語を書いた紫式部の娘(賢子)と結婚していることから、「源氏物語」に縁があったのではないかといわれています。
”たかちゃん” はのちに自分の人生を振り返る日記文学「更級日記」を残すことになりますが、この日記は、自分の事を赤裸々に書いた作品だといわれていてそれに「源氏物語」が深く関わることになるのです。
平安時代に紫式部が書いた世界最古の恋愛長編小説「源氏物語」をご存じでしょうか。
全54帖にわたり、主人公の光源氏の誕生から恋愛・栄華・老い、そして子や孫の世代までを書いた壮大な物語です。
「源氏物語」の主人公、光源氏が愛した女性たちが覚えるのが大変なほど出てきます。

光源氏の父(桐壺帝)の后の藤壺、プライドが高く不器用な最初の正妻の葵の上、光源氏の最愛の女性である紫の上、光源氏を愛しすぎて生霊になってしまった六条御息所、明石の君、末摘花、穏やかな花散里、正妻の女三宮、空蝉、朧月夜、夕顔とか・・・・・。
”たかちゃん” がとっても夢中になったのがこの「源氏物語」です。今でいうと、漫画やアニメにハマるように ”たかちゃん” は源氏物語の世界観にどっぷりハマってしまった源氏物語オタクでした。
継母こと上総大輔と実姉が話している「源氏物語」の話を聞いて深い興味を持ちますが、二人は物語をうろ覚えで話しているので物語の詳細が分からず「いつか源氏物語を全巻読みたい」と強く強く念じるようになります。
まだ一度も読んだことがないのに、頭の中では源氏の世界が広がっていきました、平安時代の「推し」といえるかもしれません。
そしてその「推し」のために仏像をつくり日々「源氏物語を全巻読めますように!」と念じ、その願いが叶い父(孝標)は都に帰ることになります。

仏像を造ってまで祈る熱量がすごい
”たかちゃん” が13歳のころ、父の任期が終わり、一家は上総国から都(京都)へ戻ることになりました。当時、地方から都へ帰るのはとても長い旅で、歩いたり、馬や舟などを使い何カ月もかかって旅をしていました(孝標女の旅は3カ月ほど)。

その旅の様子が「更級日記」に詳しく書かれています。山や川の景色に感動したり、美しい夜の月をみて感動したり、乳母と別れて悲しんだり ”たかちゃん” の感性があふれているもので、読んでいる側も感情移入して更級日記の世界にどっぷりハマってしまいます。
”たかちゃん”と一緒に上総国に行っていた継母が父の孝標と別れ家を出ていくことになります。
”たかちゃん”に源氏物語を語ってくれた女性で継母と別れるのが辛くて寂しいといっています。
また、旅の途中で別れた ”たかちゃん” の大好きな乳母が亡くなったり、同じころに大納言 藤原行成(ふじわら の ゆきなり)の娘が亡くなったりして深い悲しみに暮れていました。
そんな ”たかちゃん” を心配した母が本を読むように勧めますが、読む元気もありませんでした。
・・が、読み進めていくうちにだんだんと物語の面白さにハマっていき再び元気を取り戻すのでした。
ようやく京に戻った ”たかちゃん” ですが、なかなか「源氏物語」の全巻を読むことができずにいました。
”たかちゃん” は「源氏物語 若紫」の巻を見てなおさら全巻を読みたくなりますが、平安時代は現代のように印刷ではなく手書きで、また、紙も非常に貴重なものだったので、すぐに手に入るようなものではなかったのです。
なので ”たかちゃん” は、京に戻ってもお寺で「源氏物語を全巻読めますように!」と強くお祈りをしていたのでした。
そしてついにその日が訪れます。
親にいわれ叔母を訪ねた日のこと、帰るときになって蓋つきの箱を渡されます。
開けてみるとなんと「源氏物語 全巻」が入っていました。そのほかにも伊勢物語や他の物語も入っていたので ”たかちゃん” は涙が出るほど喜びました。

やったね~ たかちゃん

こっちまで嬉しいよ
そして ”たかちゃん” は部屋に籠って昼も夜も読みふけりました。そのときの気持ちは「皇后の位だって何だっていうの」と思うくらい源氏物語を読む方が幸せだと思っていたようです。
現代でいうなら、徹夜で漫画を一気読みしたり、推しの動画をエンドレスで見たりする感覚だと思います。しかし ”たかちゃん” の すごいところは暗記するほど物語を読みふけったというところでしょうか。

源氏物語を書いた紫式部さんについてはこちらから
”たかちゃん” が一番憧れたのは、源氏物語に出てくる薄幸の女性「浮舟」でした。
このころの ”たかちゃん” は、今はあまり器量はよくないけれど、将来は自分も髪が長く美しい女性になって源氏物語に登場する光源氏や匂宮や薫に出会って愛されるの~(浮舟みたいな)!・・と夢見る乙女でした。

のちに、あの頃の私ったらこ~んなこと言っていたのよね、と自分で自分に呆れたりしています。
*浮舟 源氏物語に登場する悲劇のヒロイン
実父の八の宮に認知されず疎まれ、養父の常陸守にも実子ではないことから疎まれ、左近少将との結婚は破談になった上、常陸守の実子で裕福な妹に乗り換えられる
その後 薫と異母姉の夫である匂宮の二人に言い寄られ、それに苦しみ入水するが、僧に助けられ出家 のちに薫に探し出されるものの最期まで会うことを拒絶する
*夕顔 源氏物語に登場する女性 父が早くに亡くなり、生活は困窮
その後 頭中将の愛人となり娘(玉鬘)を産むが、正妻に脅され身を隠した 光源氏に出会い愛されるが、物の怪によって突然亡くなってしまう

そんな悲劇のヒロインたちに憧れている ”たかちゃん” でした

ほ~
「更級日記」には、ある日 ”たかちゃん” の姉が病気になって眠っていたところ、面白い猫の夢を見たといいます。
その猫は姉妹でこっそりと飼っていた猫でしたが、姉が病気なので北側にある使用人の部屋においておいたところ・・・
猫が「わたしは大納言 藤原行成の娘の生まれ変わりなのだけど、最近使用人の部屋におかれて寂しい」という夢だったそうで、それを聞いて鳴いている猫がたいそう上品に見えて姫君なのだと納得してしまったという不思議な話が書いてあります。

生まれ変わるサイクルが早かったのね
”たかちゃん” の父 菅原孝標は60歳のときに常陸の国(現 茨城県)に赴任することになりますが、4年後に京に戻り引退、母も出家することになりました。
両親の老いを感じるようになって、 ”たかちゃん” は一家を支える立場に変わっていきます。そして周囲の勧めにより、御朱雀天皇の第三皇女 祐子内親王に仕えることになりますが、最初の頃は慣れるまで大変だったようです。
そのうち、宮仕えにも慣れてきたころに結婚することになりました。
30歳を過ぎたころに、橘俊通(たちばな としみち)と結婚しますが、夫は源氏物語に出てくるような公達ではなく、とっても普通の人で “たかちゃん” が少女のころに思っていた「華やかな恋」とは程遠いものだといっています。

“たかちゃん” は「理想と現実の違い」を感じ始めます。
「いつか源氏物語のヒロインのようになれる」と信じていた少女時代の夢は実現しなかったようで、彼女は現実的になっていくのでした。
実をいうとこの日記は、50歳を過ぎたころに自分の人生を振り返り書かれたといわれています。

上総国から京まで旅をしたこと、源氏物語に恋焦がれたことや、親しい人たちの別れなどさまざまなことがつづられ、その中で人生の後悔も書かれています。
夫が亡くなり、子どもも独立し孤独を感じるようになり現在の自分の境遇を嘆きながら、こんな思いをするのは、若いときに物語の世界に憧れ過ぎて物語を読みふけってしまったせいだと悔んだのです。
上総国から京に旅に出るところから、夫の俊通が亡くなるまでの日記となっていますが、最後は、この先どう過ごしていくのだろう、というところで終わっています。
その正直過ぎる気持ちこそが「更級日記」が多くの人の心に響く文学作品になったといわれています。
夢見がちな少女から、現実に気付いた大人になるまでの心の変化などは、時代を超えて今を生きる私たちにも重なると思います。
菅原孝標女は、平安時代に生きた「源氏物語オタク」でした。
少女のころから源氏物語に憧れて
千葉から京都への旅を経て
京で「源氏物語」全巻読破して
宮仕えや結婚生活を体験して
平凡な結婚をして現実を思い知り
「光源氏はいない」と気付いた
「物語と現実の違い」を知って、物語ばかりを読んだことを後悔している ”たかちゃん”
そしてそれを正直に書いてしまう愛すべきキャラ “たかちゃん”
平安時代に生きた “たかちゃん” と共感ポイントがたくさんあって、1000年も前の人とは思えないほど魅力的な女性です。
ブログ主もそんな菅原孝標女のファンの一人だったりします。